熱応答凝集性ポリマーを基盤とする小線源療法用薬剤の開発

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薬品物理化学研究室
佐野 紘平 講師

第15回 日本核医学会研究奨励賞(最優秀賞)
タイトル:「Brachytherapy with intratumoral injections of radiometal-labeled polymers that thermoresponsively self-aggregate in tumor tissues」

放射線療法のひとつである小線源療法は、治療用の放射性同位元素を封入したチタン製カプセルをがん組織内に留置し、局所的に大線量の放射線を照射するがん治療法です。正常組織に与える不必要なダメージは少なく、長期間抗がん作用が持続することから、特に前立腺がんに対して臨床的に高い治療効果が示されています。
しかしながら、小線源療法は線源の留置操作が非常に煩雑であり、線源が他の正常組織へ移動する可能性があることなどの問題を抱えています。私は、これらの問題を解決するために、がん組織での放射能滞留を固定化できる簡便な手法の開発に取り組み、この研究で得られた成果に対して、「Brachytherapy with intratumoral injections of radiometal-labeled polymers that thermoresponsively self-aggregate in tumor tissues」というタイトルで、第15回日本核医学会研究奨励賞(最優秀賞)(2018年11月17日付)を受賞しました。

以下に、受賞対象となった研究成果について述べます。

上述の通り、がん組織での放射能滞留を固定化しうる簡便な手法の開発を目的として、室温では溶解状態を保つ一方で、がん組織内に投与後、体温を感知して凝集・滞留するインジェクタブル小線源療法用薬剤の開発を行いました。すなわち、体温条件で凝集する放射性標識ポリマー(ポリオキサゾリン)を新たに設計・合成しました。この薬剤を体温と同じ36-37℃に加温したプレート上に滴下すると、1秒以内に凝集することを確認しました。次に、ヒト前立腺がん細胞を移植した担がんマウスのがん組織内に投与した結果、投与1週間後においても放射能はがん組織内に高く滞留していました。そこで、治療実験を実施した結果、投与する放射能量依存的ながんの増殖抑制効果および生存率の延長効果が示されました。一方で、正常組織に対するダメージは認められず、安全性の高い治療法であることを示しました。以上の結果より、放射性標識ポリオキサゾリンが、凝集効果を介してがん組織内に長期に亘り保持され、高い抗がん効果を示したことから、本薬剤を用いる新たな小線源療法の可能性を示しました。
今後は、前立腺がんのみならず、さまざまながん種あるいはがんのサイズに対応可能な小線源療法用薬剤の開発を進めていきたいと考えています。

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本研究のイメージ図

※本受賞に関連し佐野 紘平 講師は日本薬学会医療薬科学部会主催の第11回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウムにおいて、優秀発表賞を受賞しています。(2018年6月24日付)

受賞タイトル
「熱応答凝集性ポリマーを基盤とする小線源療法用薬剤の開発」


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