磁性リポソームを利用した標的組織内滞留型磁性化間葉系幹細胞の作製

薬剤学研究室 河野 裕允 講師
薬剤学研究室
河野 裕允 講師

2021年度日本薬学会関西支部奨励賞 (2022年1月21日付)
タイトル:磁性リポソームを利用した標的組織内滞留型磁性化間葉系幹細胞の作製
-骨格筋内滞留性および抗炎症効果の評価-

骨格筋は、運動や姿勢の維持を担うだけでなく、近年では全身の糖や脂質の代謝を制御する内分泌臓器としても注目されています。この骨格筋の筋量および筋力が加齢に伴い減少する症状はサルコペニアと呼ばれ、サルコペニアは転倒や骨折、糖尿病や肥満など高齢者における死亡や障害などの主な原因となっています。私は、間葉系幹細胞と呼ばれる細胞を「薬」として用いたサルコペニアの薬物療法の開発に取り組みました。間葉系幹細胞は様々な液性因子の分泌を通して、骨格筋の再生や肥大を促進する作用を示します。そのため、間葉系幹細胞はサルコペニアに対する新たな細胞製剤となることが期待されています。しかし、間葉系幹細胞を骨格筋内に投与した場合、速やかに筋肉外に流出してしまうため十分な効果が得られません。そこで私は、酸化鉄磁性ナノ粒子を間葉系幹細胞に修飾した「磁性化間葉系幹細胞」を作製し、外部より磁場を付加することで間葉系幹細胞を骨格筋内に長期間保持することができるシステムの構築を行いました。本研究で得られた成果に対して、2021年度日本薬学会関西支部奨励賞 (2022年1月21日付) を受賞いたしました。

図1
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 酸化鉄磁性ナノ粒子は濃度依存的に細胞毒性を示すため、酸化鉄磁性ナノ粒子を用いて間葉系幹細胞を磁性化するためには、酸化鉄磁性ナノ粒子は細胞内ではなく細胞表面に修飾することが望ましいと考えました。そこで、酸化鉄磁性ナノ粒子を安全性の高い負電荷脂質ナノ粒子に封入することで安全性を向上させ、さらにその表面を正電荷を有するコラーゲンで覆うことで、負電荷を有する間葉系幹細胞の表面に酸化鉄磁性ナノ粒子を高効率に修飾することに成功しました。本手法により作製した磁性化間葉系幹細胞を動物の骨格筋内に投与し、投与部位に外部より磁場を付加したところ、1週間以上に骨格筋内に保持されることを明らかにしました。今後は、作製した磁性化間葉系幹細胞の骨格筋再生能力について検討を進め、医薬品としての利用可能性を追求していきたいと考えています。


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