ゲノム情報を利用したベンジルイソキノリンアルカロイド生合成系とその発現制御機構の解明、および物質生産への展開

山田 泰之 講師
2025年度日本植物バイオテクノロジー学会奨励賞(2025年9月6日付)
タイトル:ゲノム情報を利用したベンジルイソキノリンアルカロイド生合成系とその発現制御機構の解明、および物質生産への展開
植物が生産する二次代謝(特化代謝)産物の一種であるベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)は、モルヒネやベルベリンのように強い生理活性を持つ化合物が多く、医薬品原料としても注目されています。BIAは比較的多くの植物種に見られ、近年の次世代シーケンス解析技術の発展とともに、様々な植物種から生合成に関わる遺伝子が単離されてきました。しかし10年前を振り返ると、生合成に関わる遺伝子が同定されている植物種は非常に限られており、特にゲノム情報が明らかにされているBIA産生植物はほとんどありませんでした。また、BIA生合成研究の多くは酵素の単離に集中しており、遺伝子発現制御に関する知見は現在も限られています。本研究では、多様なBIAを産生するケシ科ハナビシソウのドラフトゲノムシーケンス解析を実施し、生合成やその遺伝子発現制御に関わる因子を明らかにすること、さらに、生合成研究から得られた知見を、生産性向上を目指した研究に応用することも目指して研究を進めました(図1)。これらの研究成果により、2025年度日本植物バイオテクノロジー学会奨励賞を受賞いたしました(2025年9月6日付)。

ハナビシソウのゲノム解析から、特定のシトクロムP450ファミリー遺伝子がゲノム上でクラスターを形成し、その一部が地下部におけるベンゾフェナンスリジン型BIA生合成に関わることを明らかにしました(図2)。また、ジャスモン酸応答性のAP2/ERF型転写因子が、BIA生合成酵素遺伝子群の発現制御に寄与することも見出しました。後者については、ハナビシソウが組織ごとに異なるBIAを産生・蓄積している点に着目し、現在も植物個体レベルでの解析を進めています。さらに、BIAの供給に関わる応用研究もいくつか実施し、WRKY型転写因子の過剰発現によるBIA生産性(特に培地への排出)の向上を見出しました。また、BIA生産性を付与した微生物(大腸菌)において、輸送体を用いて生産性を向上させるアプローチ(いわゆる「輸送工学」)についても検討を行い、その有用性を明らかにしました。BIAには前述の通り、医薬品原料になり得る有用成分が数多く含まれています。
本研究で実施したゲノム解析の知見を元に、BIA生合成の仕組みを様々な観点から包括的に理解していくことは、BIAを含む多くの薬効成分を、より効率よく作らせる系の構築など、応用研究のさらなる発展につながると大いに期待しています。

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