医薬品合成を指向した基質設計とカチオン性ヨウ素試薬を鍵とする複素環合成法の開発

沖津 貴志 講師
第18回有機合成化学協会関西支部賞(2020年11月27日付)
タイトル:「医薬品合成を指向した基質設計とカチオン性ヨウ素試薬を鍵とする複素環合成法の開発」
「複素環」は多くの医薬品に見られる重要な骨格であり、その合成法も多岐にわたります。しかし、目的とする複素環を合成するためには、収率、位置および立体選択性、工程数、コスト、環境への配慮など、多くの課題を克服する必要があります。従って、これらの問題点を解決するような新しい複素環合成法を開発できれば、医薬品創出の可能性が広がります。
一方で、「ヨウ素」は日本が世界第2位の産出量を誇る国家戦略的な地下資源であり、我が国の持続可能な科学技術の発展のためにもヨウ素の高次利用化・高付加価値化が求められています。またヨウ素は安価で、環境への負荷が低いという利点もあります。私は「ヨウ素」のカチオンとしての性質を利用した「複素環」合成法を開発した成果に対して、第18回有機合成化学協会関西支部賞(2020年11月27日付)を受賞いたしました。

アルキンと求核種が同一分子内に存在する化合物をカチオン性ヨウ素試薬で処理すると、環形成とヨード化を同時に行うことができます(ヨード環化反応)。環化した生成物にはヨウ素部位が含まれているため、ヨウ素を足掛かりに更なる化学変換も可能です。従って、ヨード環化反応は、多官能基化された環式化合物を合成する上での高効率的な反応と言えます。私はヨード環化反応による複素環合成に重点を置き、これまで課題となっていた環化反応の促進、環化様式の制御、酸化的芳香化の制御を、基質とヨウ素試薬を独自に開発することで解決しました。これにより、単環性、多環性、芳香族、非芳香族、5〜8員環の系統的合成に成功し、本手法を用いた心房細動治療薬dronedaroneや抗炎症薬valdecoxibの合成も達成しました。最近では、脱芳香族的なヨード環化反応を鍵とする連続反応により、単純な出発物質から複雑な三次元多環式化合物への変換にも成功しています。今後は、複素環ライブラリーの生物活性測定試験への供給や、更なる複素環合成法の開発を進めていきたいと考えています。

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