免疫療法への応用を目指したプロバイオティクス由来細胞外小胞の有用性評価と機能改変技術の開発

森下 将輝 講師
2024年度日本薬学会関西支部奨励賞(2025年1月17日付)
タイトル:生体直交型反応を基盤とするプロバイオティクス由来細胞外小胞の機能改変と免疫療法への応用―ハイドロゲル化と免疫賦活性評価―
生体を構成する細胞は、互いにタンパク質や核酸などのメッセージ物質を輸送することで様々な生命現象に関与しています。これまで、細胞間の物質輸送は細胞同士の直接的な相互作用や、サイトカインなどの可溶性分子を介して行われると考えられていました。近年これらの機構に加えて、細胞外小胞と呼ばれる、脂質二重膜からなる細胞分泌性の微粒子が細胞間の物質輸送に関与することが明らかとなりました。細胞外小胞はその発見当初、細胞内の不要な物質を排出するゴミ袋とみなされていました。しかし現在では、細胞外小胞が我々の高度な生命現象を担っていることが明らかとなり、特定の細胞外小胞を利用した新たな疾患治療法の開発にも注目が集まっています。その一方で、従来の研究は哺乳類細胞が分泌した細胞外小胞を対象としたものが大半であり、微生物が分泌する細胞外小胞に関する情報はほとんど存在しませんでした。そこで私は、微生物の中でも安全性に優れる善玉菌(プロバイオティクス)が分泌した細胞外小胞に備わる有用性の解明と機能改変技術の開発に至るまで一貫した研究を行い、医療応用に資する新たな知見を獲得しました。この成果により2024年度日本薬学会関西支部奨励賞を受賞いたしました。

プロバイオティクス由来の細胞外小胞は生体が持つ初期の免疫反応(=自然免疫反応)を効率よく活性化したことから、新規の免疫賦活剤としての有用性が備わっていることを明らかとしました。私はこの細胞外小胞の機能をさらに高めることで今までにない新たな免疫療法が開発できると考え、プロバイオティクスが持つアミノ酸代謝機構と生体直交型反応を組み合わせた、細胞外小胞のハイドロゲル製剤化技術を開発しました。本手法により作製したハイドロゲル化細胞外小胞を用いることで、細胞外小胞の免疫活性化能が大幅に増大しました。引き続き、細胞外小胞を基盤とした安全性と有効性の双方に優れる治療法の実現を目指した研究に取り組んでいきたいと考えています。
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