亜鉛触媒反応を応用した細胞内亜鉛イオンの高感度検出プローブの開発

薬化学研究室 髙嶋 一平 特任助教
薬化学研究室
髙嶋 一平 特任助教

第22回 日本亜鉛栄養治療研究会学術集会 基礎領域 優秀演題賞
タイトル:「亜鉛触媒反応を応用した細胞内亜鉛イオンの高感度検出プローブの開発」

生体の様々な働きを制御する亜鉛の動きを知るツールの作成
亜鉛は酵素や転写因子の補因子として機能する生体内の必須元素です。更に、生体内分子と結合した状態だけではなく、水中に遊離した状態の亜鉛イオンがシグナル伝達物質としても機能することがわかってきました。このような遊離した亜鉛は、たとえば膵β細胞でのインシュリン分泌の制御や、神経細胞間でのシグナル伝達の調整にかかわることがわかっています。このような背景から、生体内での亜鉛の挙動解析は生体内機能の解明において必要とされています。しかし、生体内ではグルタチオンやメタロチオネインなどの亜鉛を捕捉する分子が大量に存在し、遊離した亜鉛は非常に低い濃度に抑えられていてその検出は困難でした。よって、亜鉛の有する生体内機能の解明研究を更に押し進めるためには、高感度な検出方法の開発がいまだに求められています。そこで私たちは「シグナル増強」という概念を用いて高感度な亜鉛センサー分子を開発いたしました(図1)。細胞内の夾雑な環境下において、従来の分子では検出が困難な低濃度の亜鉛であっても大きな蛍光強度変化で高感度に検出できます。この研究により第22回 日本亜鉛栄養治療研究会学術集会 基礎領域 優秀演題賞を受賞いたしました。(2021年8月7日付)

図1
図1


亜鉛が次々に反応して蛍光シグナルを増強する仕組み
本分子は亜鉛で切断される分子骨格に亜鉛の結合部位を導入した構造で、亜鉛が配位すると分子骨格が分解して消光状態の色素を放出します。放出された色素は発蛍光するとともに、残った分子骨格は細かく分解されて亜鉛を放出するので、亜鉛は図2の反応サイクルを繰返して多くの分子と反応します。従来の分子は配位型のセンサー分子であり、亜鉛一つに対して一つの分子しか反応しませんが、私たちの分子は一つの亜鉛に複数の分子が反応するために大きなシグナル比で高感度に亜鉛を検出できます。実際に試験管内や細胞内では、従来の分子に比べて優れた感度で低濃度の亜鉛を検出可能であることがわかりました。今後は本分子を用いて低濃度の亜鉛が関わる生体内機能の解明研究に役立てていきたいと考えています。


図2
図2

本受賞に関連して髙嶋一平特任助教はコニカミノルタ画像科学奨励賞も受賞しています。
受賞タイトル:「シグナル増強システムを用いた亜鉛イオンの生体内蛍光イメージング」


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