高感度な免疫測定法の構築に必須な高親和力抗体を効率よく獲得する手法の開発

木口 裕貴 特任助教
2021年度日本薬学会関西支部奨励賞 (2022年1月21日付)
タイトル:「免疫測定法の高感度化に資する高親和力変異抗体探索システム― Clonal Array Profiling (CAP) 法の構築と応用 ―」
抗体は、免疫システムの重要な役割を担うタンパク質として知られていますが、特定の化学構造を精密に認識して結合する性質から、分析試薬としても広く活用されています。抗体を用いる分析法は「免疫測定法」と総称されますが、高感度な免疫測定法を構築するには、測定対象物 (抗原) に対して高い親和力を有する抗体 (結合定数Kaが大きい抗体) が不可欠です。しかし、高親和力抗体を得る明確な指針は存在しません。そこで、私は遺伝子操作により抗体の親和力向上を図る「抗体工学」の潜在力を最大限に引き出すことを目的としてClonal Array Profiling (CAP) 法 (図1) を開発し、その有用性を実証しました。この成果により2021年度日本薬学会関西支部奨励賞 (2022年1月21日付) を受賞いたしました。

抗体工学の手順は、①抗体をscFv (小型抗体) 化し、②多様な変異を導入して変異scFvの分子集団 (ライブラリー) を作製したのち、③その中から親和力が上昇した改良型変異体を選択するというものです (図2a)。本法は動物が作り得ないアミノ酸配列を持つ「人工の」高親和力抗体を創出することが可能と期待されていますが、実際には多大な労力を費やしたあげく、満足のいく結果が得られないことも珍しくありません。この原因として③のステップの標準法である「パンニング」の効率に問題があると考え、新しい選択法であるCAP法を構築しました。本法の有用性を、副腎皮質ホルモンであるコルチゾール (CS) に対する抗体を題材として、パンニングとの比較により評価したところ、CAP法では改変前のscFvから30倍以上もKaが上昇し、1×1010 (M-1) を超える変異体が5種得られたのに対し、パンニングではそのような変異体は全く得られませんでした (図2b)。そして、CAP法で得られた変異体はCSの免疫測定法において、パンニングで得られたものよりも明らかに高い感度を示していました (図2b)。今後はCAP法を活用して、様々な抗原に対する高親和力抗体を創出し、社会実装への展開に注力したいと考えています。

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