ワンポット立体選択的環化反応を基盤とする生物活性多官能複素環の実践的合成

山田 健 准教授
第23回有機合成化学協会関西支部賞(2025年8月27日付)
タイトル:ワンポット立体選択的環化反応を基盤とする生物活性多官能複素環の実践的合成
天然有機化合物(天然物)は、古くから医薬・農薬の重要な供給源であり、これまでに承認された医薬品の約半分が天然物あるいは天然物の化学構造などを利用したものです。特に、特徴的な三次元構造を有する天然物は、しばしば一風変わった重要な生物活性を示します。これらの天然物の多くが、sp3炭素に富んだ多官能複素環を部分構造に持っており、如何にその複雑な複素環を効率的に構築できるかが、生物活性天然物の合成およびその先にある医薬品開発の鍵です。
一般的に有機化学反応は、1つの容器で1つの反応を行い、1つの結合を作ります。ワンポット反応は、1つの容器(ワンポット)で複数の反応を行い、複数の結合を形成する反応であり、シンプルな分子から一挙に複雑な分子を合成できます。本来複数の工程で合成する分子を1工程で合成するわけですから、使用する溶媒や試薬、時間を削減でき、極めて効率的で環境負荷の少ない反応となります。私は医薬品開発を目的に、ワンポット立体選択的環化反応によるsp3炭素に富んだ多官能複素環の合成を基盤とし、医薬品候補生物活性天然物の全合成と、ワンポット反応により合成した天然物類似の多官能複素環(擬天然物)からの新規創薬リードの探索を行っています。本研究の成果により第23回有機合成化学協会関西支部賞(2025年8月27日付)を受賞いたしました。

独自に設計したワンポット立体選択的環化反応による多官能複素環の構築を鍵に、特異な多官能複素環を有するNeoxalineとMangromicin Aの初の全合成を達成しました。両天然物は、「顧みられない熱帯病」として知られるアフリカ睡眠病の起因寄生虫であるトリパノソーマに対し、既存薬と同等の抗トリパノソーマ活性を示します。また、天然物そのものでなくとも、天然物類似の多官能複素環化合物であれば有用な生物活性を示すと考え、ワンポット立体選択的環化反応による生物活性物質の探索を進めています。これまでに新たな多成分連結型ワンポット立体選択的環化反応を二種報告し、その生成物の中から様々な疾病に関わるNotchシグナルの強力な阻害剤を見出すことができました。今後は、最近合成したヘキサヒドロフロフラン類の生物活性評価と、また新たな多成分連結型ワンポット立体選択的環化反応の開発し、新規創薬リードを発見したいと考えています。

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