がん固有の環境を標的とした癌治療増感をめざす創薬化学研究

薬化学研究室:髙木 晃
薬化学研究室
髙木 晃 講師

第24回国際癌治療増感研究協会 研究奨励賞(2024年6月29日付)
タイトル:がん固有の環境を標的とした癌治療増感をめざす創薬化学研究

がん固有の環境を標的とする創薬研究
固形がん周辺では低酸素・低栄養・低pHなど、固有の環境が存在しています。このような過酷な環境に適応したがん細胞は、放射線療法や抗がん剤など既存の治療に対して高い抵抗性を示すことや、転移・浸潤能が亢進することにより、がんは悪性化しやすくなることが知られています。一方で近年これらのがん固有の環境を治療の標的とすることが注目され、研究が進められています。その中でも特に低栄養環境に対する研究については未解明の部分が多く、天然物からのスクリーニングにより活性のある化合物を探索する研究は行われているものの、新薬に繋がる化合物の報告例は非常に限定的でした。そこで、私は低栄養選択的にがん細胞を攻撃するような化合物を、天然物の全合成と構造の簡略化を軸に新たな抗がん剤創製に向けた創薬研究を行いました。この研究により第24回国際癌治療増感研究協会 研究奨励賞を受賞いたしました。(2024年6月29日付)


図1
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がん固有の環境で活性を示す化合物の合成と評価
まず、膵臓がん細胞の一つであるPANC-1に対して、低栄養条件で培養した時にだけ細胞毒性を示す天然物であるuvaridacol Lの全合成に取り組みました。最終的に安価なmyo-inositolを出発原料として7工程で世界初のラセミ体全合成に成功しました。つづいてuvaridacol Lの構造的特徴がグルコースと類似していることに着目しました。グルコースは非常に安価な原料であり、有機合成による構造変換も幅広く研究されてきています。そのため、グルコースを基本骨格とした化合物が低栄養環境で選択的に高い活性を持つことを示すことができれば、新規誘導体創製における合成の簡略化や多様化が期待され、より迅速な構造展開が望めると考え、新規グルコース誘導体の合成と活性評価を行いました。その結果、新たに合成したuvaridacol Lと類似の構造をしたグルコース誘導体に関してもuvaridacol Lと同等の生物活性を示すことが明らかになりました。今後もこれらの知見をもとに多様なグルコース誘導体を創製し、新たな抗がん剤のリードとなる化合物を見出していくことで創薬研究に貢献していきたいと考えています。


図2
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