骨ターゲティング型ドラッグデリバリーシステム開発に関する研究


製剤学研究室
山下 修吾 ポストドクター

がん骨転移は対応困難な骨痛、病的骨折、脊髄麻痺を引起し患者の死期を早めることから、その抑制法の開発が切望されてきました。従来の骨転移療法は、がんの脊髄圧迫による疼痛や麻痺の緩和を目的とした放射療法や鎮痛薬投与が行われてきましたが、骨は他臓器と比較して血流速度が遅く、血液-骨髄液関門により血液から骨への物質移動も制限されているため、骨への薬物移行性が不十分であることから骨転移の進行そのものを抑制する方法が皆無でした (図 1)。私は大学院(京都薬科大学薬剤学分野)時代より一貫して、効率的に抗がん剤を骨へ送達可能なドラッグデリバリーシステムの構築による骨転移治療法の開発を目指して、骨ターゲティング効率に優れる薬物キャリアの設計開発に取組んできました。これらの研究成果により、この度、日本薬剤学会第33年会最優秀発表者賞 (平成30年5月31日付) を受賞いたしました。

日本薬剤学会第33年会最優秀発表者賞
タイトル:「アスパラギン酸修飾に基づく骨指向性デンドリマー型ナノミセルの開発及びパクリタキセルによる癌骨転移治療への応用」

生体内には骨親和性の高いタンパク質が存在し、その構造中に酸性アミノ酸の連続配列モチーフを有することが知られています。この酸性アミノ酸が骨基質であるヒドロキシアパタイトへの親和性に寄与することが報告されていることから、私たちは樹状高分子ポリマーの一種であるポリアミドアミンデンドリマー (PAMAM) の表面にさまざまな酸性アミノ酸、カルボン酸を結合させた誘導体を合成し、各種誘導体の負電荷強度やヒドロキシアパタイトとの親和性、カルシウムイオンとのキレート能の相関性、マウス尾静脈内投与後の体内動態解析の観点から、骨ターゲティングに最適な修飾素子を系統的に評価しました。その結果、アスパラギン酸修飾PAMAMが最も骨ターゲティング能に優れることを見いだし、私たちはアスパラギン酸修飾を基盤としたさまざまな薬物キャリアの設計開発を行ってきました。

本研究では、アスパラギン酸修飾脂質や、アスパラギン酸修飾両親媒性高分子を利用したリポソームや高分子ミセルに、抗がん剤パクリタキセルを封入させ、骨へのパクリタキセルの送達に成功しています (図 2)。これら抗がん剤封入薬物キャリアを骨転移モデルマウスに静脈内投与することで、骨転移部位におけるがん細胞数を顕著に減少させることも明らかにしました。今後、アスパラギン酸修飾薬物キャリアを利用した機能性ペプチドや核酸の骨ターゲティングを目指すとともに、骨代謝異常に伴う骨関連疾患治療への応用を進めていきたいと考えています。


図1 骨転移薬物治療の問題点



図2 骨ターゲティング型ドラッグデリバリーシステムの概要



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