生理活性ペプチドの鼻腔内投与による脳への送達と疾病治療への応用

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製剤学研究室
田中 晶子 特任助教

第27回 DDS カンファランス Postdoctoral Presentation Award 2018
タイトル:「生理活性ペプチドの鼻腔内投与による脳への送達と疾病治療への応用」

一般に、生理活性ペプチドは多様な作用を持ち、活性が高いため、中枢疾患の治療薬として魅力的です。しかし、水溶性で、分子量が大きいため、静脈内注射や経口投与などの通常の投与方法では、脳への移行性が低く、中枢作用を得ることは困難です。一方、鼻腔はペプチド性医薬品の投与部位として注目を集めておりますが、同時に、脳組織を取り巻いて存在する脳脊髄液(CSF)との直接的なつながりを示唆する実験事実が多く報告されています。つまり、鼻腔内投与することで、血液脳関門を回避して、生理活性ペプチドを直接CSFあるいは脳に送達することが可能と考えられます。本研究では、分子量約 1000 Daの2 種類の生理活性ペプチド、CPN-116(ニューロメジン誘導体)とoxytocin(OXT)に注目しました。これらの生理活性ペプチドを鼻腔内投与することで、脳内送達を実現し、薬理効果を指標に臨床応用の可能性を明らかにしました。これらの研究成果に対し、第 27 回 DDS カンファランスにおいて、Postdoctoral Presentation Award 2018 (2018年9月7日付)を受賞致しました。

生理活性ペプチドの鼻腔から脳への直接移行経路による送達の可能性

鼻腔から脳への薬物の直接移行経路としては、脳から鼻腔に伸びる2種類の神経の関与が報告されています。その神経とは、嗅神経と三叉神経です。嗅神経は頭蓋内の嗅球から伸びて、篩板を介して、鼻腔側へ貫通しています。嗅神経経路はこの嗅神経周辺を介して、あるいは篩板付近にまで分布するCSFを介して、脳へ移行する経路です。一方、三叉神経は延髄から伸びて鼻腔まで到達しており、三叉神経の周囲を介して薬物が移行する経路です。薬物がCSFに移行した後の脳内動態には、glymphatic system と呼ばれる細胞外液の脳内循環システムの関与が示唆されています。この循環によって、脳表面CSF中のペプチドが脳内深部まで到達する可能性が指摘されています。

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CPN-116, OXT を鼻腔内投与、静脈内投与、腹腔内投与して、その後の血中濃度と脳内濃度を比較しました。静脈内投与、腹腔内投与と比べて、鼻腔内投与後の脳内濃度が高いこと、また、鼻腔の近傍に位置する嗅球において最も高い濃度を示すことを明らかにしました。更に、脳への全移行量に対する直接移行量の割合を算出したところ、OXTでは 95% 以上、CPN-116では80%以上であり、ペプチドが鼻腔から直接脳に移行する可能性が明らかとなりました。更に薬理効果を指標にした評価においても、鼻腔内投与の優位性を確認することができました。以上の結果より、鼻腔は生理活性ペプチドの脳内送達を可能にする新規投与部位としての可能性を秘めており、鼻腔内投与は脳へ薬物を送達するための簡便かつ有効な手段であることが示唆されました。

※田中特任助教は、このコメント以降も以下のとおり受賞しています。

2019年2月6日付
日本薬剤学会2018年度第2回Global Education Seminar「Global Education Seminor Presentation Award 2018」

受賞タイトル
"Delivery of bioactive peptide from nose to brain for the treatment of CNS disorders"


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