胆汁酸毒性低減を指向する肝細胞膜リン脂質トランスポーター活性化因子の探索

医薬細胞生物学研究室 池田 義人 助教
医薬細胞生物学研究室
池田 義人 助教

2020年度日本膜学会膜学研究奨励賞
タイトル:「胆汁酸毒性低減を指向する肝細胞膜リン脂質トランスポーター活性化因子の探索」

肝臓内で生合成される胆汁酸は、親水性環境に脂質を可溶化させる界面活性作用を有しています。この胆汁酸の界面活性作用は、食事由来の脂質や脂溶性ビタミンが小腸から体内へと吸収される過程において重要な役割を果たしています。一方、細胞膜は脂質の一種であるリン脂質の二分子膜構造から成ります。そして、高濃度の胆汁酸は細胞膜の構造を崩壊させるため、肝細胞が胆汁酸による障害を受けるようになると深刻な肝炎が引き起こされます(図1)。しかし、健常時における胆汁中にも胆汁酸は高濃度存在しているにもかかわらず、正常な肝細胞膜は胆汁酸による損傷を受けません。この肝細胞膜の胆汁酸耐性獲得機構は、胆汁うっ滞性肝組織障害に対する新規治療薬の開発につながる可能性がありますが、いまだ十分に解明されていません。
私は、胆汁酸とともに胆汁中に多く含まれているコレステロールやリン脂質の重要性に着目し、この研究で得られた成果に対して、2020年度日本膜学会膜学研究奨励賞(2020年6月2日付)を受賞いたしました。

図1
図1


上述の通り、胆汁中には胆汁酸やコレステロール、リン脂質が多く含まれています。そこで、リン脂質とコレステロールの共存が、胆汁酸の肝細胞毒性に与える影響を評価しました。その結果、リン脂質は胆汁酸による肝細胞損傷を防ぐ働きをするが、コレステロールはそのリン脂質の働きを弱めることを明らかにしました。このことから、胆汁中へのリン脂質排出を促進することは、胆汁酸による肝組織障害の軽減につながると期待できます。胆汁中へのリン脂質排出には脂質トランスポーターのABCB4が重要であり、胆汁酸の一種であるタウロコール酸がABCB4によるリン脂質排出を促進することが報告されていました。そこで、ABCB4のリン脂質排出をさらに促進する胆汁酸を探索したところ、タウロヒオデオキシコール酸が極めて強力な促進作用を有することを見いだしました。さらに、ABCB4のリン脂質排出メカニズムにおいて、胆汁酸とリン脂質の混合ミセル形成過程が重要であることを示しました(図2)。
今後も、肝細胞膜の胆汁酸耐性獲得機構において重要なABCB4に関する研究を進めていくことで、胆汁うっ滞性肝組織障害に対する新規治療薬の開発などにつなげ、医療への還元を目指します。


図2
図2

※本受賞に関連し池田 義人 助教は2019年度日本薬学会関西支部奨励賞を受賞しています。(2020年1月24日付)
受賞タイトル:「タウロヒオデオキシコール酸が有する胆汁中リン脂質排出促進作用とその機序 〜胆汁酸肝組織障害に対する治療薬開発を目指したABCB4活性化分子の探索〜」


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