ドパミン神経軸索伸長の新たな評価系の確立とその制御因子に関する研究


薬理学研究室
泉 安彦 講師

脳における神経回路の形成機構を解明することは、精神・神経機能の理解に役立つだけでなく、神経変性疾患で失われた神経回路を再生する治療にも利用できます。神経変性疾患であるパーキンソン病に深く関わる中脳ドパミン神経は線条体という脳領域に神経突起を投射しています。これまでドパミン神経突起を線条体へと誘導する因子については報告されてきましたが、ドパミン神経突起が線条体神経を認識し神経支配していく機序には不明でした。今回我々は、ドパミン神経による線条体神経支配を再構築できる評価系を確立し、それに関与する分子を明らかにしました。これらの研究成果に対し、第33回日本薬理学会学術奨励賞を受賞いたしました。

第33回日本薬理学会学術奨励賞
タイトル:「ドパミン神経軸索伸長の新たな評価系の確立とその制御因子に関する研究」

培養細胞を用いたドパミン神経による線条体神経支配の再構築

In vivoの脳内では中脳黒質から線条体へドパミン神経突起は伸長しますが、これが培養細胞を用いて再現できないか検討しました。中脳細胞と線条体細胞を対峙させて培養することで、ドパミン神経突起が中脳細胞領域から線条体細胞領域に伸長することが分かりました。この現象は、ドパミン神経の標的でない細胞との対峙培養では起こりませんでした。したがって、ドパミン神経突起が線条体細胞を特異的に認識していることが示唆されます。


図 げっ歯類脳における中脳ドパミン神経の線条体への突起伸長



図 中脳一線条体対峙培養における線条体へのドパミン神経突起伸長


ドパミン神経による線条体神経支配におけるインテグリンα5β1の関与

培養細胞を用いた実験系は、比較的高いスループット性を有し、薬理学的・遺伝学的操作が容易となります。様々な薬物処置や遺伝子操作を行い、ドパミン神経に発現する細胞接着分子であるインテグリンα5β1が線条体神経支配に関与することを見出しました。さらに、インテグリンα5β1の機能を高めると線条体でのドパミン神経突起伸長が促進することも示しました。


図 インテグリンα5β1によるドパミン神経突起伸長の促進


今後の展開

パーキンソン病では、人工多能性幹(iPS)細胞から分化したドパミン神経前駆細胞を線条体へ移植する治験が計画されています。本研究の結果から、移植するドパミン神経のインテグリンα5β1の機能を高めると効率よく線条体を神経支配し、治療効果が上がるのではないかと考えられます。


図 インテグリンα5β1機能亢進による細胞移植効果の向上



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