水溶性ポリマーを母体とするがんの診断・治療用プローブの開発

佐野 紘平講師
ポリエチレングリコールに代表される水溶性ポリマーは、重合反応を利用した化学合成が可能で、生体適合性が高く、医薬品添加剤や修飾剤として、医薬品の水溶性及び安定性の改善、更には体内動態を制御する目的で利用されています。しかしながら、水溶性ポリマー自体が、病態診断あるいは治療用薬物キャリアとして有用であるかについては、ほとんど明らかになっていませんでした。そこで、水溶性ポリマーの体内動態を物理化学的に制御できる可能性に着目して、それを母体とする診断薬の開発研究、更にその成果を基盤とした治療薬開発への展開研究を進め、がんの診断・治療に有効なプローブを見いだしました。これらの研究成果に対し、平成29年度日本薬学会物理系薬学部会奨励賞を受賞いたしました。
平成29年度日本薬学会 物理系薬学部会 奨励賞
タイトル:「水溶性ポリマーを母体とするがんの診断・治療用プローブの開発」
明瞭ながんの「光超音波イメージング」に成功
本研究では、光超音波イメージングを用いて、水溶性ポリマーを母体とするがんの診断薬の開発を行いました。光超音波イメージングは、組織に近赤外パルスレーザー光を照射し、光吸収体が熱膨張を起こす際に発生する音響波を画像化する新しいイメージング技術です。検出する対象が音であることから、蛍光イメージングと比べて、比較的体の深部の信号を検出することができます。

診断用薬物キャリアとしては、水溶性ポリマーの一つである「ポリオキサゾリン」に着目しました。ポリオキサゾリンは、酸により側鎖のアシル基を加水分解することが可能であり、そこに複数の機能性分子を導入することができます。

光超音波シグナル素子であるインドシアニングリーン(蛍光色素の一つ)を複数導入したプローブを合成し、このプローブが非常に高感度な光超音波シグナルを示すことを見いだしました。更にポリマーの分子量や加水分解の割合、インドシアニングリーンの導入数をコントロールすることにより、がん部位に選択的な光超音波シグナルの増加を認め、明瞭ながんの光超音波イメージングに成功いたしました。

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