植物が薬効成分を貯める仕組みの解明
〜タバコのニコチンを例にして〜

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生薬化学研究室
士反 伸和 准教授

薬用植物は医薬品となる様々な化合物を作ります。しかし、それらを植物細胞内で貯めておく仕組みはほとんどわかっていませんでした。私は、タバコにおいてニコチンが根から葉へと動く仕組みを研究し、世界で初めて転流に働くニコチン輸送体を見つけてきました。

この度これら研究成果により、「植物二次代謝生産における自己耐性と輸送の分子機構に関する研究」というタイトルで2015年日本農芸化学会奨励賞(平成27年3月26日付) 、「タバコ植物におけるニコチン転流機構の解明」というタイトルで第20回天然薬物の開発と応用シンポジウム 優秀発表賞(平成26年11月10日付)を受賞させていただきました。

植物は20万種を超えるとされる生理活性物質を生産し、薬用植物由来のモルヒネ(鎮痛剤)など多くは、現在も医薬品原料として用いられています。一方で、生産量が少なく供給の難しい有用化合物も多く、その安定供給系の開発が求められます。植物に多く作らせるためには、それら化合物を貯める仕組みの解明が重要であると考え、私はタバコ及びニコチンアルカロイドをモデルに輸送体の研究を行ってきました。

タバコにおいてニコチンは、根で作られた後に地上部へ転流され、葉の液胞に貯められます。ニコチンは神経毒として働くため、葉に蓄積させることで昆虫などから身を守っていると考えられています。このニコチン転流は70年も前に明らかとされたにも関わらず、その仕組みは全く明らかとなっていませんでした。私たちは遺伝子の共発現解析という手法から輸送体の単離を試み、葉の液胞にニコチンを輸送するJAT1、JAT2という輸送体を見つけだすことに成功しました。

ニコチンなどアルカロイドと呼ばれる化合物は医薬品原料に多く用いられますが、本研究成果は、転流に関わる液胞へのアルカロイド輸送体の初めての同定になります。今後、本研究成果を他の薬用植物へ応用することで、医薬品をより多く貯める植物の育種へと繋がる可能性があり、さらに研究を進めていきたいと考えています。

2015年度 日本農芸化学会奨励賞受賞
タイトル:「植物二次代謝生産における自己耐性と輸送の分子機構に関する研究」

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図 ニコチン輸送体JAT1、JAT2の機能モデル


タバコは、虫などによる傷害を受けると、ジャスモン酸という防御応答に関わる植物ホルモンにより、根におけるニコチン生産を増加させる。ニコチンは導管を通って地上部へと転流され、葉の液胞に高濃度で蓄積し、その毒性から虫への防御に関わると考えられている。単離したJAT1、JAT2は葉の液胞への輸送に働いていると考えている。


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