炭素ラジカル反応性化合物を基盤とする生体内脂質ラジカル検出放射性プローブの開発

薬品物理化学研究室:山﨑 俊栄 准教授
薬品物理化学研究室
山﨑 俊栄 准教授

2026年日本アイソトープ協会奨励賞(2026年7月10日付)
タイトル:炭素ラジカル反応性化合物を基盤とする生体内脂質ラジカル検出放射性プローブの開発

私たちの体は、絶えず活性酸素などのラジカル(不対電子をもつ不安定な化学種)にさらされています。通常は、生体内の抗酸化機構によってこれらは速やかに消去されますが、そのバランスが崩れると、細胞膜を構成する脂質が酸化され、「脂質ラジカル」と呼ばれる反応性の高い物質が生成します。この脂質ラジカルは、さらなる酸化反応の引き金となり、脳梗塞や神経変性疾患といった脳疾患の発症・進行に深く関わっていると考えられています。しかし、脂質ラジカルは生成量がごくわずかで寿命も短いため、これまで生体内で直接とらえる手法は確立されていませんでした。そこで私は、この脂質ラジカルを標的とした検出技術の開発に取り組み、その成果に対して2026年日本アイソトープ協会奨励賞を受賞いたしました。

図1:脂質ラジカルと疾患
図1:脂質ラジカルと疾患


本研究では、「ニトロキシド」と呼ばれる特殊なラジカル化合物を利用しました。ニトロキシドは、それ自体は例外的に安定に存在できる一方、脂質ラジカルのような炭素ラジカルとは選択的かつ鋭敏に反応するという性質を持っています。私はこれまで、この反応選択性を分子の構造設計によって向上させる研究を進めてきましたが、本研究ではさらに一歩進め、この化合物に放射性同位元素(放射性ヨウ素)を導入することで、生体内での脂質ラジカルの動きを画像として捉える「核医学分子プローブ」の開発に取り組みました。

図2:ニトロキシドの構造と開発したプローブおよび脳虚血再灌流モデルにおけるプローブの集積変化
図2:ニトロキシドの構造と開発したプローブおよび脳虚血再灌流モデルにおけるプローブの集積変化


開発したプローブは、生体内に豊富に存在する還元物質(アスコルビン酸など)に対して高い安定性を示しつつ、脂質ラジカルとは選択的に反応するという、検出プローブとして理想的な性質を兼ね備えていました。さらに、脳梗塞モデル動物を用いた実験では、脳の血流が一時的に途絶えて再開する「虚血再灌流」という病態において、梗塞部位に本プローブが特異的に集積する様子を捉えることに成功しました。また、集積する部位が時間の経過とともに変化していく様子も観察され、脂質ラジカルの生成が脳梗塞の進行過程とともにダイナミックに変化していることが示唆されました。
この成果は、これまで見ることのできなかった脳内の酸化ストレスの動態を、放射性同位元素の力を借りて可視化する新しいアプローチを提示するものです。将来的には、脳梗塞をはじめとする脳疾患の早期診断や、治療効果の判定への応用が期待されます。今後も、放射性同位元素の特性を活かした分子プローブの開発を通じて、脳疾患の病態解明と早期診断技術の確立に貢献していきたいと考えています。


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