発色団による長波長光応答モデルの構築

光で脳をコントロールしようとするオプトジェネティクスは、脳神経の機能解明と密接にかかわり、記憶における脳の制御や脳神経変性疾患、精神神経疾患の発病メカニズムの解明が期待できるなど非常に有用な研究分野です。本研究では、緑色光による刺激が制限となっているチャネルロドプシン(ChR)を発色団側からとらえ、赤色光などによる、より長波長光での刺激活性化ができるような新規発色団を開発し、新規ChR のモデルを構築することを目的としています。将来、脳神経機能疾患の治療法や治療薬の開発につなげるための基礎研究として取り組んでいきます。

研究コンセプト

実験イメージ図

従来のChR2を用いたオプトジェネティクスでは深部到達性の低い青色光を用いているため、より深部到達性の高い長波長光によって活性化できるChR2が必要とされています。
そこでより長波長の光を吸収できる発色団を合成して、長波長光で応答する人工ChRを作製し、脳神経作用の解明に役立てます。

ChR2とは?

緑藻クラミドモナスから見出された光活性型タンパク質であり、7回膜貫通型Gタンパクの一種として知られています。
ChR2の発色団としてall-trans-retinal (1)がChR2のヘリックス7のリジン残基とプロトン化Schiff塩基を形成しており、青色光を吸収して13-cis体(2)に異性化することでタンパク質部分の構造変化を引き起こし、その結果イオンチャネルの開閉を誘発することができます。

反応イメージ図
反応イメージ図
異性化反応図
異性化反応図

オプトジェネティクス(光遺伝学)とは?

ChR2のような光(活性化型)タンパク質をアデノウイルスを介した遺伝子導入により神経細胞に発現させ、光を照射することで神経細胞の活動を制御する学問です。従来の神経細胞活動の人工的誘発は電極を用いた電気刺激によるものが主流を占めていましたが、必然的に物理的侵襲を伴うこと、また電極付近の細胞や軸索を均一に刺激してしまうため、ある特定の神経細胞だけを刺激することは不可能でした。
一方、オプトジェネティクスでは光照射による刺激であることから侵襲性が低いことに加え、特定の神経細胞だけを刺激することが可能です。疾患に特徴的な神経細胞の障害、神経細胞死などによる精神神経疾患の発症機構を解析するツールとして期待されています。

「学術研究振興資金」事業

本プランは、私立大学等(研究所の研究を含む。)に所属する研究者(教職員)が、2 人以上で共同して行う研究で、このプロジェクトは京都大学大学院理学研究科 生物物理学系と神戸薬科大学 生命有機化学研究室が共同で取組みます。