ごあいさつ

 本研究プロジェクトは、DNA, タンパク質に続く”第三の生命鎖”として注目されている「糖鎖」を共通のキーワードとして、動脈硬化, 癌, アミロイドーシスなどの慢性疾患の病態形成機構を解明し、これらの疾患の診断薬や治療薬のシードになるような化合物を作り出すことを目指しています。約20年の糖鎖研究の実績をもち、国内外で高い評価を受けている生化学研究室、循環器疾患や生活習慣病を中心とした基礎研究成果を展開しトランスレーショナルリサーチの実践を目指す臨床薬学研究室、オリジナリティーの高い”有機合成力”で疾患糖鎖に挑む薬品化学研究室、そして分子イメージングプローブの開発やそれらを駆使して生命現象の解明を行う薬品物理化学研究室の4研究室が本事業の研究課題に取り組んでいます。

生化学研究室    北川 裕之(代表)
臨床薬学研究室   江本 憲昭
薬品化学研究室   宮田 興子
薬品物理化学研究室 向 高弘

プロジェクトの目的

 私たちの体を構成する細胞の表面はたくさんの糖鎖で覆われています。また、細胞が存在する周りの環境にもたくさんの糖鎖が存在しています。このような糖鎖によって、細胞のはたらきが正常に整えられ、私たちは健康に生きていくことができると考えられます。正常時とは異なる糖鎖がつくられてしまった場合、体の恒常性を乱され、病気にかかりやすい、あるいは病気が重篤化してしまう体質をつくり出してしまうことでしょう。本プロジェクトでは、どんな糖鎖が病気と関連するか?、病気に関連した糖鎖はどのような酵素によってつくられるか?、異常な糖鎖がどのような悪さをすることで病気が起こるのか?といった問題に挑戦しながら、創薬や診断薬の標的になるような分子を見つけ、クスリのタネになるような化合物をつくりだそうと考えています。

プロジェクトの特色

 「糖鎖」という生体分子から病気やクスリを考える点が本プロジェクトの特色•独自性を生み出しています。また、新たに開発された複素環化合物合成法によってつくられた神戸薬科大学固有の化合物ライブラリを用いてスクリーニングを行うため、他では見つからない生物活性をもった化合物を発見できる可能性があります。本プロジェクトには、PD や大学院生、女性研究者も複数参加しています。若手研究者や女性研究者に活躍の場を提供し、ジェンダーフリーな環境で次世代を担う研究者の育成に力を注いでいる点も特色です。大学院生や PD には、積極的に学会での発表の機会を与え、その結果、多くの者が学会から表彰されています(受賞者リスト

プロジェクトにより期待される成果

 本プロジェクトでは、動脈硬化や癌、アミロイドーシスなど、社会的に問題になっていたり、詳しい原因が解明されず難病に指定されている慢性疾患の治療や診断に使えるようなクスリのタネの開発であるため、我が国の健康・福祉に大いに貢献することが期待されます。

INFORMATION

2014-09-29
「研究機関における公的研究費の管理•監査のガイドライン(実施基準)」に関するコンプライアンス教育を受講
2014-09-18
海外研究者講演会の開催 講演者:James W. Fawcett 博士 所属:Cambridge University, Center for Brain Repair 演題:Targeting the extracellular matrix for spinal cord injury and Alzheimer's disease
2014-04-22
国際特許出願 Hiroshi Kitagawa, Tadahisa Mikami 【PCT/JP2012/073794】「Skeletal Muscle Regeneration Promoter」
2013-03-29
特許出願 北川 裕之, 灘中 里美, 田村 純一 【特願 2013-075157】「ヘパラナーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻 害剤のスクリーニング方法」
2013-02-20
特許出願 北川 裕之, 小池 敏靖 【特願 2013-031563】「骨密度増加剤及び骨密度増加剤のスクリーニング方法」
2013-02-20
海外研究者講演会の開催 講演者:Prof. Robert M. Williams, Ph.D. 所属:Department of Chemistry, Colorado State University 演題:Total Synthesis as Vehicle for Penetrating Biomechanistic Puzzles: Challenges in Natural Products Chemistry
2012-12-10
海外研究者講演会の開催 講演者:Prof. Peter J. Litle, AM, Ph.D. 所属:RMIT University 演題:Proryl Peptidyl Isomerase (PPIs) in Proteoglycan Synthesis and Atherosclerosis
2012-10-16
第一回戦略会議の開催
2012-09-20
海外研究者講演会の開催 講演者:James W. Fawcett 博士 所属:Cambridge University, Center for Brain Repair 演題:The Perineuronal Net in the Control of Plasticity and Memory

事業採択のお知らせ      2012.6.20

平成24年度文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に神戸薬科大学から申請した事業が採択されました。

糖鎖が骨格筋の分化/再生過程を制御する鍵因子であり、この発現レベルを調節することで筋ジストロフィーを改善できる可能性を示した論文を学術雑誌に報告しました

2012. September
骨格筋の分化過程が正常に進行するには、一過的に糖鎖の量が減少することが重要であり、この制御を行う糖鎖分解酵素を同定することに成功しました。この分解酵素の発現量を操作すれば、筋肉の分化/再生過程を促進できることから、筋ジストロフィーなど筋疾患の再生医療への応用の可能性を示しました (Mikami, T. et al.)。

初期動脈硬化巣を検出できる可能性のある試作段階のプローブの合成に成功し、その成果を学術誌に報告しました

2013. February and October
血管壁に貯留する悪玉コレステロール(LDL) を可視化する新規蛍光ラベル化剤を合成し、実際に動脈硬化初期巣を新規蛍光ラベル化剤で検出可能であることを実験的に示しました(Miyoshi, T. et al., Mayasari, D.S. et al.)。新規蛍光ラベル化剤の合成は、薬品化学研究室を中心にプロジェクト構成研究室で実施した共同研究の成果です (Miyoshi, T. et al.)。そして、モデル動物を用いた蛍光ラベル化剤の臨床評価は臨床薬学研究室と薬品化学研究室の共同研究の成果です (Mayasari, D.S. et al.)。

本事業の研究内容に関連した論文が Biological and Pharmaceutical Bulletin 誌の表紙に選ばれました

2013. April
薬品物理化学研究室の論文が、日本薬学会発行のBiological and Pharmaceutical Bulletin誌 2013年4月号の表紙に選ばれました。

血管石灰化と糖鎖の合成異常の関連性を示した成果を学術誌に報告しました

2013. August
動脈硬化の後期病変として石灰化が知られています。血管の石灰化は、特に慢性腎不全を患い腎透析を受けている患者さんにとって大きな問題となっています。糖鎖の合成異常が血管石灰化と密接に関連することを、臨床薬学研究室と生化学研究室との共同研究により示しました (Purunomo, E. et al.)。論文では、糖鎖の合成異常による血管石灰化の発症機序についてのモデル仮説も提唱しています (Purunomo, E. et al.)。

糖鎖の合成異常が急性肝炎とその後の治癒過程に影響を与えることを示した結果を学術雑誌に報告しました

2013. June
”炎症”は種々の疾患、特に慢性疾患の背景を形成するものとして注目されています。炎症により糖鎖の量や構造が変化することや肝臓の再生過程に糖鎖が影響を与えることを示した例が多数報告されています。このような背景から、First Trial として、糖鎖の合成異常を起こしたマウスに急性肝炎モデルを適応し解析しました。その結果、糖鎖が正常に合成されないと急性炎症が治まりにくい可能性が示されました (Nadanaka, S. et al.)(生化学研究室)。
2013. March
急性肝炎や血管の石灰化の研究に用いた”糖鎖合成異常を起こしたマウス”は、EXTL2 遺伝子を欠損させることで作製しています。EXTL2 遺伝子の欠損が糖鎖合成異常を起こす生合成機構の詳細は、こちらの論文 (Nadanaka, S. et al. ) をご参照下さい(生化学研究室)。

急性期タンパク質である SAA のアミロイド原性が遺伝子多型によって影響を受けることを示した成果を学術論文に発表しました

2014. January
血清アミロイドA (SAA) は炎症の急性期に血中濃度が著しく増大する急性相反応物質であり、アミロイド原性をもっています。慢性炎症性疾患に続発する AAアミロイドーシスでは SAA 由来のアミロイドが組織に沈着することが知られていますが、SAA のアミロイド原性を決定する要因は確定できていません。本論文では、薬品物理化学研究室が得意とする合成ペプチドを用いたアプローチから、遺伝子多型による違いが SAA のアミロイド原性に影響を与え、AAアミロイドーシスの発症と関連する可能性を示唆しています(Takase, H. et al.)。なお、本論文は、大学院生(D2)が筆頭著者となっており、この論文に関連した研究発表が複数の学会から表彰されています(受賞者リスト)。

本事業の研究成果を発表した学術論文が Faculty of 1000 で紹介されました

2014. April
生化学研究室の論文が Faculty of 1000 に推薦されました。
悪性度の高いヒト乳がん細胞に高発現する糖鎖構造の発見とその生合成モデル機構の提唱、そしてこの糖鎖構造が癌転移に関わるヘパラナーゼの阻害活性をもっていたことを示した論文です (Nadanaka, S. et al.)。

*Faculty of 1000 とは?*
生物医学系の学術研究に対する画期的で新しい評価システムです。全世界の約4000名のトップリサーチャー (ノーベル賞受賞者やラスカー賞受賞者も含まれています) がFacultyメンバーとして毎月読んだ論文で優れたものを推薦します。

本事業の研究内容に関連した総説が Chem. Pharm. Bull の表紙を飾りました

2014. September
薬品化学研究室の上田昌史准教授の総説が Chemical and Pharmaceutical Bulletin 誌 2014年9月号 (Vol. 62 No. 9) の表紙に選ばれました。
医薬品を含む生体内の機能を調節する低分子化合物には「複素環化合物」が多いことが知られています。本総説では、”ドミノ型反応”という画期的な合成法による複素環化合物の合成についての研究成果を紹介しています。

大学広報誌「ききょう通信」に本事業の研究内容や研究機器の紹介記事が掲載されています

ページのトップへ戻る