『未根治心房中隔欠損症における肺高血圧発症メカニズムの解明と治療法最適化への応用』

概 要

これまでの外科的治療の進歩に加え、最近の肺高血圧症に対する内科的薬物治療の充実が多くの先天性心疾患患者の予後を改善し、これまで成人まで生きながらえる事の出来なかった患者が、続々と成人を迎えつつあります。本邦において、今後成人先天性心疾患への診療ニーズは益々高まることが予想され、より深い先天性心疾患への分子生物学的・遺伝的素因の理解が急務と考えられます。また同時にアジア太平洋諸国では医療体制の整備により未治療の肺高血圧合併先天性心疾患をいかに治療するかが大きな問題となっています。

そこで我々は成人先天性心疾患で最も多い心房中隔欠損症(ASD)に焦点を絞り、その病態解明と新規バイオマーカーの探索・治療法最適化への知見集積を目的として日本とインドネシア間での共同研究を開始しました。

ASD患者は未治療であっても成人まで生存できる例が多いのですが、一部の症例では右心系への容量負荷により次第に肺血管のリモデリングが進行し、やがて肺高血圧症を発症します。一旦肺高血圧症を発症すると外科的根治術の治療予後は悪くなるため根治術をあきらめ、これまで患者はEisenmenger症候群の発症後死を迎えるのみでした。昨今の肺血管拡張薬の導入により予後改善が見られるに至りましたが、未だに『ASD患者の内でどのような患者が肺高血圧に至りやすいのか。』や『どのような患者が内科的治療に反応しやすいのか。』といった疑問が未解明のままです。

本研究により日本では決して体験できないインドネシアの豊富な未根治ASD症例を日本の優れた分子生物学・遺伝学の技術を用い解析することにより、今後の先天性心疾患診療に有益な情報を提供できることが期待されます。