動脈硬化症の病態解明

 私たちは、血管の「糖鎖」に着目し、動脈硬化症の発症機構を明らかにする研究をおこなっています。動脈硬化症は、心筋梗塞といった心血管系疾患や、脳梗塞・脳卒中といった脳血管障害の原因になります(図1)。脳・心血管系疾患による死亡は、わが国の全死亡の約30%を占めていることから、早急な対策が必要です。動脈硬化の進行の様子しかし、現在のところ、動脈硬化症を直接治療する方法はありません。動脈硬化症を悪化させる高血圧、糖尿病や脂質異常症といった疾患自体のコントロールは、さまざまな薬によって可能となりつつありますが、依然として心血管疾患が増加している事実を踏まえると、動脈硬化症自体を標的とした新たな治療戦略の確立が急務と考えられます。


 動脈硬化症が何故おきるのか、完全には解明されていませんが、最近、「貯留反応説」という考えがなされるようになりました。血管壁に脂質が溜まることが、動脈硬化症の始まりだとするもので、脂質が溜まる鍵となるのが「糖鎖」ではないかと考えられています。「糖鎖」はもともと血管にありますが、動脈硬化症のきっかけとなる「糖鎖」は長さが長く、性質が変化して、脂質と結合しやすい「糖鎖」に変化するのではないかといわれています。実際、私達の研究室で、動脈硬化症を発症させたマウスを調べたところ、動脈硬化症が進行するに伴い、「糖鎖」が長くなっていくことが確認できました。また、神戸薬科大学生化学研究室が明らかにした糖鎖の合成に関わる酵素が、マウスの動脈硬化巣でも働いていることがわかりました。つまり、動脈硬化症は、病気を起こす糖鎖(疾患糖鎖)により引き起こされる疾患であり、血管の「疾患糖鎖」を健康な時と同じ「糖鎖」に戻してやれば、血管自体を治療できる可能性があるのではないかと考えています(図2)。糖鎖合成酵素と動脈硬化症現在、私たちは生化学研究室が樹立した糖鎖合成酵素の遺伝子改変マウスに動脈硬化症を発症させ、糖鎖の合成異常が疾患にどのような影響を与えるかを検証しています。動脈硬化症と疾患糖鎖の関係を明らかにし、将来的には、高血圧、糖尿病や脂質異常症といった疾患の有無に関わらず、動脈硬化症の発症を予防できる、血管糖鎖を標的とした治療の確立に向けて研究成果を蓄積しています。