お問い合わせ 神戸薬科大学 生命分析化学研究室

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研究内容
特異モノクローナル抗体をキー試薬とする生理活性物質の超微量分析法の開発

抗体を分析試薬として活用する抗原 (標的物質) の超微量定量分析法は、免疫測定法 (イムノアッセイ) と総称され、臨床検査、食品の衛生管理や環境の保全に不可欠な方法論となっています。その性能 (分析能) は、用いる抗体の良否に支配されます。標的抗原への親和性が大きいほど高感度な測定が可能になり、分子認識力 (特異性) が大きいほど夾雑物の影響を受けにくい測定が可能になります。当研究室では、免疫抗原を適切にデザインすることにより、親和性と特異性に優れたモノクローナル抗体を、様々な生理活性物質 (ステロイド類、甲状腺ホルモン、環境汚染物質、不正薬物など) (図1) を標的として新規に調製し、実用的な免疫測定法を開発しています。

図1. モノクローナル抗体を新規調製した標的化合物の例

分析能の向上を目的とする新しい非競合型測定システムの開発

免疫測定法の原理は、競合型と非競合型に大別されます(図2)。タンパク質の超高感度定量法として多用されている 「サンドイッチアッセイ」 は非競合型の代表的な例で (図2A)、測定対象の抗原を2種類の抗体 (固定化抗体と標識抗体) でサンドイッチするように反応させるものです。競合型 (図2B) にくらべて高い感度が容易に得られ、特異性や精度にも優れるアッセイ原理ですが、 低分子抗原 (ハプテン) には適用することが困難です。

図2. 非競合型免疫測定法 (サンドイッチアッセイ) (A) と競合型免疫測定法 (B) の原理

当研究室では、抗イディオタイプ抗体 (抗体の可変部を認識する「第2抗体」) や免疫複合体に特異的な抗体をキー試薬とする低分子生理活性物質の非競合型システムの開発を検討しています。図3Aに示すアッセイ系により、20 attomole (2×10−17mol) の副腎皮質ステロイドを検出することができました(図3B)。これは、従来の競合法によるステロイドの免疫測定法より100倍以上高い感度と言えます。

図3. 副腎皮質ステロイドの非競合型酵素免疫測定法 (immunoenzymometric assay) の原理 (A) と用量作用曲線 (B)

■−■ は非競合型酵素免疫測定法の、●−● は比較のため行った競合型ラジオイムノアッセイの用量作用曲線。

進化分子工学に基づく高性能抗体試薬の創製と分析化学への応用

分析試薬として利用される抗体は、現在、ほとんどB細胞ハイブリドーマ法により調製されています。しかし、動物の免疫応答は遺伝的統御を受けるため、得られる抗体の機能(抗原への親和性や特異性など)にはおのずと限界があります。当研究室では、進化分子工学の手法による抗体機能の改善に取り組んでいます。抗体可変部遺伝子へin vitroでランダム変異を導入することにより変異抗体の分子集団 (ライブラリー)を構築し、より優れた機能を獲得した分子種を選択するもので(図4)、いわば「抗体の育種」です。

図4. ファージ提示法を活用した進化分子工学による改良型抗体フラグメント (一本鎖FVフラグメント) の
   創製プロセス (A) と抗体可変部ドメイン (VHとVL) の構造 (B)

すでに複数の低分子バイオマーカーについて、「試験管内親和性成熟」に成功し、得られた変異体を用いて免疫測定法 (ELISA) の高感度化に成功しています。エストラジオール-17β (卵胞ホルモン) と結合するマウス由来の抗体のH鎖可変部 (VH) とL鎖可変部 (VL) を遺伝子操作により連結して「一本鎖Fvフラグメント」(single-chain Fv fragment; scFv) を作製し、その遺伝子に3段階の点変異導入を行ったところ (図5A)、得られた変異体のひとつはマウス抗体のFabフラグメントより250倍大きな親和性を示し、約40倍高感度な ELISAが可能になりました (図5B)図5Cは、エストラジオール-17βがこの変異scFvに捕捉された状態のin silicoモデリングです。 この成果を発表した論文のひとつは、Analytical Chemistry誌のウェブサイトで、ハイライト論文に選ばれています。

図5. 変異導入・選択の各段階で得られた改良型抗エストラジオール-17β scFvの一次構造 (A)、ELISAへの応用 (B)in silicoモデリング(C)

"抗体様"分子認識単位の創製

特定の物質の化学構造を精密に認識して強い親和力で結合するタンパク質は、高感度で特異的な分析試薬として活用することができます。抗体はこのような特徴を備えるため、様々な抗原の超高感度分析に用いられていますが、より優れた機能性タンパク質となりうる「非抗体 scaffoldタンパク質」 (non-antibody scaffolds) (図6) の創製を試みています。

図6. 機能性非抗体scaffoldタンパク質に求められる性質

 *共通の scaffold とループから成る
 *分子量が小さい
 *単量体である
 *安定である
 *大量発現が容易
 *水溶性が大きい




抗体フラグメント酵素融合タンパク質を活用する高感度免疫測定法の開発

免疫測定法では、酵素や蛍光色素などで標識した抗原あるいは抗体を抗原抗体反応の進行を知るためのプローブとして用います。従来は、両者を化学反応により連結していましたが、反応モル比の制御や未反応の試薬の除去に限界があり、このことが測定感度を低下させる一因となっていました。いまでは、遺伝子操作により、異なる機能を持つ2つ以上のタンパク質を直結させた「融合タンパク質」を作製することができます。当研究室では、分析対象の低分子抗原に結合するscFvを、最近注目されている生物発光酵素、Gaussiaルシフェラーゼ (海洋性カイアシ由来の発光酵素) (GLuc) と連結させた融合タンパク質を作製して、免疫測定法に活用しています。scFvと酵素がモル比1:1で結合した、理想的な「酵素標識抗体」です。これを用いたコルチゾール (副腎皮質ステロイド) の「生物発光ELISA」では、既存のコルチゾール免疫測定キットに比べて大幅に高い感度が得られています (図7)

図7. scFv-GLuc融合タンパク質の作製 (A) とコルチゾール免疫測定法の用量作用曲線 (B)

(B)
:当研究室の生物発光ELISA
:当研究室のscFv-ALP-ELISA
:DetectX (ArborAssays)
:Cortisol ELISA kit (Enzo Life Sciences, inc.)
:Cortisol ELISA kit KA4009 (Abnova)
:Cortisol AccuBind ELISA Kits (Monobind inc.)
:Cortisol EIA Kit Expanded Range High Sensitivity Salivary (SALIMETRICS)
:DRG Cortisol ELISA EIA-1887 (DRG International Inc.)
横軸のコルチゾール用量は、各測定キットに添付された情報を基に、ng/mLまたは mg/dL単位からpg/assay単位に換算した。