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    私たち人間は数十兆個の細胞が集まった多細胞生物です。その人間が生きていくためには、様々な細胞が情報を共有して、その情報に合わせて一つ一つの細胞が行動を決定する必要があります。その一つの方法として、細胞が作って外にばらまく分子(分泌因子)を通じたコミュニケーションが知られています。現在、様々な分泌因子が発見され、それを使って細胞と細胞の間でどのようなやり取りが行われているのかが明らかになりつつあります。
しかし、まだ全ての分泌因子の役割が明らかにされたわけではありません。我々は新しい分泌因子を発見し、その役割を明らかにしていくことは、生命のしくみや病気の原因の理解につながると考え以下の研究を進めています。

1. ニューデシンの研究
2. FGF21の研究
(3. 日常的に食べている食用きのこ「まいたけ」の抗がん作用について)


1. ニューデシンの研究

    我々が同定に関わったニューデシンという因子について、現在行っている研究を説明します。ニューデシンは細胞から分泌されるタンパク質の一つで、神経細胞の生存や機能を調節する働きを持ちます。我々は、ニューデシンが神経だけではなく、もっと様々な臓器や器官で作られていることに着目し、神経以外にも多くの細胞のコミュニケーションに、さらには疾患の発症などに関わっているのではないかと考えました。
    その結果、我々は、がんの進展にニューデシンが重要な働きをする可能性を見つけました。我々の体には、体内の異物を排除する免疫というメカニズムが存在します。がん細胞は、元々は体の細胞だったものが変化して制御できなくなってしまったものですが、体はこれを異物と判断して、免疫で排除していきます。ニューデシンは、この免疫の開始などに関わる樹状細胞やマクロファージの働きを弱めてしまうようです。その結果、体に生まれたがん細胞を排除できなくなり、がんが進展していくことになるのではないかと考えています。ニューデシンの詳しい働きを明らかにする研究を進めつつ、将来的には、ニューデシンの働きを弱めることで免疫力を上げて、がんの治療に結び付けられればと考えています。



    なお、この研究の成果を発表した図師さんや谷垣君、朴さん(発表当時5年生)は、それぞれ日本薬学会第139、141、143年会において優秀発表賞(ポスター発表の部)を受賞しました  link

    また、体のすみずみに酸素を運ぶ役割を担う赤血球という細胞があります。赤血球は体の全細胞の約70%ともいわれるくらい多数を占める細胞ですが、日々骨髄という場所で作られるとともに、古くなった赤血球は脾臓という臓器に存在する赤碑髄マクロファージという細胞によって食べられて破壊されています。生まれる数と破壊される数が調節されて、体全体に存在する赤血球数は一定の数を保っているわけです。
    先に述べたニューデシンは、この赤碑髄マクロファージから分泌され、赤碑髄マクロファージに働きかけて、赤血球の破壊を抑えていることがわかりました。すなわちニューデシンは赤血球の数の調節を行なう分泌因子であるということになります。


    この研究の成果を発表した石垣くん(発表当時6年生)が日本薬学会 生物系薬学部会 第19回Pharmaco-Hematologyシンポジウムで、阿部さん(発表当時5年生)が第20回Pharmaco-Hematologyシンポジウムにおいて優秀発表賞を受賞しましたlink  link

    その他、2015年にニューデシンが全身のエネルギー消費を抑え、肥満を誘発するように働くことを明らかにしました(Ohta H., Konishi M., et al. (2015) Sci. rep.  PubMed)。現在は、ニューデシンのエネルギー消費を抑えるメカニズム(どんな細胞に働きかけて、どんな影響を与えているのか)を詳しく研究しています。肥満の健康への悪影響については明らかにされつつあります。ニューデシンを通じて、人が太るメカニズムを解き明かすことや、健康維持に貢献できるのではないか、と期待しつつ研究を進めています。

代表論文
1. Kondo K, et al. Neudesin, A Secretory Protein, Suppresses Cytokine Production in Bone Marrow-Derived Dendritic Cells Stimulated by Lipopolysaccharide BPB Reports. (2023) Volume 6 Issue 5 Pages 155-162. link
2. Nakayama Y, et al. (2024) A secretory protein neudesin regulates splenic red pulp macrophages in erythrophagocytosis and iron recycling. Commun Biol.  (2024) Jan 25;7(1):129.  PMID: 38272969. link


2. FGF21の研究

    ニューデシン以外にも、FGF21という分泌因子についても、やはり体の中でどんな情報を伝えているのか研究を進めています。昔から、免疫系の細胞の一つであるT細胞が、自分の細胞を攻撃せずに外来の侵入物を見分けて攻撃することが知られています。自分の細胞を攻撃してしまう「良くないT細胞」は胸腺という臓器で取り除かれることは有名ですが、FGF21は胸腺のある細胞に作用して、「良くないT細胞を見分ける」ことを助けているようです。




    さらに近年、人の食生活が乱れていることが指摘されています。食生活の乱れには、栄養素の偏りもありますが、拒食やドカ食いなども知られています。我々は、拒食後の再摂食の時に起こる肝臓の変化とFGF21の関わりについても研究をしています。

代表論文
1. Nakayama Y, et al. (2017) Fgf21 regulates T-cell development in the neonatal and juvenile thymus. Sci. Rep. 23:7(1):330.  link
2. Konishi M , et al. (2016) Secreted factor, FGF21, regulates diverse biological processes. Seikagaku. 88(1):86-93.  PubMed


3. 日常的に食べている食用きのこ「まいたけ」の抗がん作用について

    分泌因子の研究とは独立した研究ですが、我々は、食用きのこの「まいたけ」に含まれる物質の中に、免疫を強くするものがあることを見つけました(Masuda Y, et al. (2017) PLoS One. link)。この物質は、免疫を通じてがんの進展を抑える可能性があることを実験動物のレベルで研究してきました。現在は、企業との共同研究により、この免疫を強くするという働きを持つ物質の詳しい情報を得ること、さらに、その働きの基盤となるメカニズムを明らかにするべく、研究を進めています。



代表論文
1. Masuda Y, et al. Maitake α-glucan promotes differentiation of monocytic myeloid-derived suppressor cells into M1 macrophages. Life Sci.  (2023) Mar 15:317:121453. link
2. Masuda Y, et al. Maturation of dendritic cells by maitake α-glucan enhances anti-cancer effect of dendritic cell vaccination. Int immunopharmacol. (2019) 67:408-416.  link