RESEARCH

薬品化学研究室では「有機合成化学」の手法を駆使して、以下の2つメインテーマを中心に優れた医薬品創製の基礎的研究を行っています。

新合成手法の開発

  近年、医薬品の構造は多様化しており、標的となる化合物の効率的合成法の開発は、資源の有効利用や環境保護の面からも重要な課題です。このような観点から、当研究室では目的とする有機化合物のみを選択的に、また可能な限り環境にやさしい方法で合成するための新しい方法論の開発研究を行っています。

 

  具体的には、連続するヘテロ原子の反応性を利用したドミノ型反応や極性転換反応、閉環反応、およびトリエチルボランやジメチル亜鉛をラジカル開始剤とするラジカル反応を中心に医薬品合成へと適用可能な効率的反応の開発研究を推し進めています。

 

オキシムエーテルにアリルマグネシウムブロミドを反応させると付加−脱離−転位−付加の4つの反応が一挙に進行してジアリル基を有するアニリン類が得られることを見出しました。この反応は非常に短時間高収率で反応が進行し合成困難な4級炭素を構築できます。

 

N-アルコキシエナミンを求電子剤とした有機アルミニウム試薬によるケトンのα位極性転換反応を開発しました。本反応では中間体であるエナミンやイミンを単離する必要がなく、通常は導入困難な求核種をケトンのα位に導入することができます。

 

オルト位にアルキンを有する安息香酸のWeinrebアミド誘導体の位置選択的閉環反応によるイソベンゾフラノン類およびイソキノリノン類の合成法の開発に成功しました。本反応は反応条件により閉環反応の位置選択性を制御できる興味深い反応です。

 

アルキニルオキシムエーテル類の遷移金属触媒による閉環−プロトン化反応により二置換イソキサゾールを、閉環−転位反応により三置換イソキサゾールを合成できることを明らかにしました。この反応により多くの生物活性物質に含まれる多置換イソキサゾール類を効率的に合成できます。特に、三置換イソキサゾール合成は原子効率の非常に高い反応です。

 

共役オキシムエーテルへのラジカル付加反応と[3,3]‐シグマトロピー転位反応を組み合わせたドミノ型反応を開発しました。この反応では一挙に複数の結合を構築し、非常にユニークな三環性骨格を構築することができます。

 

クロロホルム中トリエチルボランをラジカル開始剤として用いるとトリクロロメチルラジカルが発生し、シクロプロペン類に付加することを見出しました。また、ラジカル開始剤としてジメチル亜鉛を用いると、興味深いことにトリクロロメチルラジカルの付加後に、シクロプロパン環が開環したと考えられる非共役ジエンが得られました。

 

トリクロロメチルラジカル付加反応で得られたシクロプロパン類の位置選択的開環反応の開発にも成功しました。ジメチル亜鉛で反応を行うとC2-C3結合間での開環反応が進行し、塩化銅(I)を用いて開環反応を行った場合では、C1-C2結合間での開環反応が進行することを見出しました。

 上記の(1)で開発した新しい合成手法を用いて、短段階かつ効率的な経路で種々の新規化合物、特に多官能性複素環化合物類を合成し、より良い医薬品に向けての候補化合物を創り上げています。また、報告されている生物活性物質のより効率的な全合成研究もおこなっています。

 

 更に本研究を通して見出された新規化合物類の中から他の研究グループとの共同研究により新規医薬品シード化合物を探索します。

 

 また、治療用医薬品のシード化合物だけでなく、診断薬のシード化合物となるような蛍光プローブなどの機能性分子の開発もおこなっています。

 

 

悪玉コレステロールを選択的にラベル化する蛍光試薬の開発研究

 

チオールは生体内においてタンパク質を構成するアミノ酸のなかでシステインにのみ含まれています。そのため、チオールとのみ反応できる分子はシステインを含まないタンパク質Aとシステインを含むタンパク質Bを識別することができます。たとえば、悪玉コレステロールであるLDLと善玉コレステロールであるHDLを比較するとLDLにはシステインを含むタンパク質があり、HDLにはありません。そのため、チオールとのみ反応する蛍光ラベル化剤は両者のうち動脈硬化の原因となるLDLコレステロールのみを光らせることが可能になり,これをツールとして動脈硬化症発症の原因を解明できると考えられます(図A)。

 

このような考えのもと基礎的研究として,チオールと選択的に結合する蛍光ラベル化剤の開発を行っています。チオールの選択的蛍光ラベル化剤にはアルコールやアミンが存在するなかでチオールとのみ反応し、強固な結合を形成する性質が求められます。我々が開発した独自の手法でしか合成することのできないジエニルイミン1がチオールと選択的に反応し芳香化することによって非常に強固な炭素−硫黄結合を形成した2が得られることを見出しました(図B)。このような手法でチオールを捕獲したのは、世界で初めてです。