近赤外光を吸収する人工ChR作製を指向したシアニン色素型発色団の開発


生命有機化学研究室
沖津 貴志講師

チャネルロドプシン(ChR)は7回膜貫通型の光活性型イオンチャネルであり、青色光を吸収することでChRが開き膜電位変化を起こします。このChRを神経細胞に発現させ、「光」を当てることで神経細胞の活動を制御しようとする学問はオプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれ、主に脳機能を解析するツールとして注目されています。しかし、深部到達性の低い青色光(短波長光)でないとChRを活性化できないため、深部の神経細胞を刺激するためには光ファイバーをその部位まで刺す必要があります。従って、光ファイバーフリーで深部の神経細胞を刺激するには、より深部到達性の高い近赤外光(長波長光)で応答するChRを創製する必要があります。ChRはレチナール(発色団)とチャネルオプシン(タンパク質)から構成されており、レチナールを近赤外光吸収型発色団に置き換えることができれば、近赤外光に応答する人工ChRの実現に向けての大きな一歩となります。そこで、近赤外光を吸収する発色団の開発を行い、この研究成果に対し日本レチノイド研究会第28回学術集会首藤賞(平成29年11月19日付)を受賞しました。

日本レチノイド研究会第28回学術集会首藤賞
タイトル:「近赤外光を吸収する人工ChR作製を指向したシアニン色素型発色団の開発」


図 オプトジェネティクスの概略図


私たちは、近赤外光を吸収する発色団としてシアニン色素に着目しました。シアニン色素はエナミンとイミニウムイオンがポリエンを介して共役する構造を有し、一般的に長波長光を吸収することが知られています。そこで、発色団であるレチナールを模倣したシアニン色素をデザインし、それらを合成・評価しました。その結果、ヘテロ環を有するシアニン色素型発色団が、近赤外領域である700 nm以上の光を吸収することを明らかにしました。現在、これらの発色団を用いた人工ChRモデルの作製を進めている段階にあります。


図 今回の研究成果



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