細胞内で作動する糖鎖合成異常を修復する仕組みの発見

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生化学研究室
灘中 里美 講師

第20 回(2015 年度)日本細胞生物学会論文賞 (CSF Award)受賞
タイトル:「TFE3 Is a bHLH-ZIP-type Transcription Factor that Regulates the Mammalian Golgi Stress Response」

私たちを構成する「細胞」に指示を与え「細胞」をやる気にさせる糖鎖

ヒトは約60 兆個(37 兆個という説もあり)の細胞から構成されていますが、すべての細胞の表面や周りには、たくさんの糖鎖が存在し、健康に生きるために重要な役割を果たしています。糖鎖はいろいろなタンパク質と結合することで細胞に「増えなさい」「神経細胞になりなさい」という指示を与えたり(図1)、糖鎖が存在することによって細胞の周りの雰囲気がよくなり、「さあ、今から増殖するぞ」と細胞をやる気にさせたりする役割を持っています。

さて、注目してほしいのは、糖鎖が緑色・オレンジ色・水色の部分に色分けされていることです(図1)。色の違いは糖鎖の構造の違いを表し、水色の部分は「増えなさい」という命令に、オレンジ色の部分は「神経細胞になりなさい」という命令に関係します。つまり、命令したい内容を持つ糖鎖構造を、状況に応じてつくり分けることで、適切な指示を細胞に与えています。

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図1 糖鎖のはたらき

「細胞」の正常な働きを妨げる糖鎖の合成異常

もし、状況にそぐわない指示が出たらどうなるでしょう? 例えば、ビルの高層階で火災が発生したとき、本来ならば、下層階の非常口へ向かうよう指示がなされるはずです。もし、誤って火災現場より上層階へ避難する指示がなされたならば、多くの人は煙にまかれて命の危険にさらされるでしょう。細胞に指示を与える糖鎖が正しくつくられなかったときにも同じことが起こると考えられます。増えなくてもいい細胞が増殖を始めたり、ベストなタイミングで神経細胞にならなかったり・・・。このようなことが起こるため、糖鎖の合成異常は、骨の病気や神経疾患など多くの病気の原因になっていると考えられています。

細胞は糖鎖の合成異常を修正する仕組みを生まれながらに持っています

私たち人間と同じように、細胞はいつも快適な環境の中で生きているわけではありません。ときには、過酷な環境にさらされ、調子が悪くなり、正しい糖鎖がつくれないこともあります(図2)。そんなとき、細胞は泣いてばかりいるわけではありません。細胞内では正しい糖鎖をつくり出そうと対応策が講じられています。

細胞内には糖鎖をつくる工場「ゴルジ体」が存在します(図2)。糖鎖合成に異常が生じると、糖鎖合成工場「ゴルジ体」に連絡が行き、正しい糖鎖がつくられるように製造ラインが調整されます。細胞内では、こんな仕組みが作動しているので、少しばかり過酷な環境に置かれたとしても、すぐに病気にはなりません。

このような糖鎖合成異常を修復する仕組みが細胞に備わっていることを発見したことが受賞の理由です。今後、この新しい 仕組みを医学・薬学分野へ貢献できるような研究へと発展させていきたいと考えています。

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図2 糖鎖に異常が生じると細胞内の糖鎖合成工場であるゴルジ体に連絡が行き、再び正しい糖鎖がつくられるようになる

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