がんのストレス応答系に関するケミカルバイオロジー研究

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薬化学研究室
奥田 健介 教授

がん組織は、低酸素、低栄養、小胞体ストレスなど劣悪なストレス環境にあり、近年、がん細胞はさまざまなストレス応答システムを介して生存していることが明らかになりました。それに伴い、ストレス応答システムを標的とするがん治療の概念が生まれました。

私たちは、従来からがんの治療抵抗性とのかかわりが知られていたがん低酸素を可視化する近赤外蛍光小分子プローブを開発し、世界に先がけて非侵襲的にがん低酸素を蛍光イメージングすることに成功しました。

さらに、がんのかかわるストレス応答システムを阻害する化合物を天然物(プロポリス)及び既存の医薬品(ビグアニド類)より見出し、種々の誘導体の設計・合成、構造活性相関研究を行って、より高活性な化合物の創製に成功しました。これらの研究成果により、「がんのストレス応答系に関するケミカルバイオロジー研究」というタイトルで第17回国際癌治療増感研究協会 協会賞(平成28年7月2日付) をこのたび受賞いたしました。

がんに特徴的な分子標的を個々に狙う分子標的薬の登場により、がん化学療法は近年大きく進歩しましたが、副作用などまだ多くの課題が残されています。他方、私たちの開発した化合物は、がんを取り巻く環境への適応応答という複雑な現象全体を標的として設定する創薬戦略に基づいており、現在有効な治療法のないタイプのがんに対する治療薬の創製に貢献したいと考えています。あわせて、種々のストレス応答システムにかかわる分子種を可視化する小分子プローブを開発し、がんの細胞内シグナル制御機構の解明を目指します。

第17回国際癌治療増感研究協会 協会賞受賞
タイトル:「がんのストレス応答系に関するケミカルバイオロジー研究」

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図 左前肢皮下にある低酸素がんの近赤外蛍光イメージング


私たちの開発した低酸素蛍光プローブを静脈内注射し、生きている状態のマウスのがんの低酸素領域を光らせて体外から可視化することに成功しました。

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図 がんのストレス応答を標的とする創薬戦略


がん細胞を取り巻く微小環境はストレス環境下にあり、これに対応するべくストレス応答システムを介してがん細胞は生存しています。HIF-1α、GRP78などの関わるこれらストレス応答を修飾する化合物(がん微小環境モジュレーター)を私たちは開発しました。これらの化合物はがんの生存戦略を阻害し、新しいタイプのがん治療薬の創製につながることが期待されます。


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