肺高血圧症の臨床研究

 私たちは実臨床に直接役立つ研究を目指して、神戸大学医学部附属病院 循環器内科と共同で肺高血圧症患者から得られる臨床データや血液・細胞などの臨床検体を用いて、肺高血圧症の新しい病態解明や新規治療法の開発に取り組んでいます。

 神戸大学は関西圏下より約200名近くの肺高血圧患者を集め、全国的にも症例経験の豊富な肺高血圧治療専門施設として認知されており、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼⅤ阻害薬、可溶性グアニール酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン製剤などの薬物療法に加えて、経皮的肺血管拡張術や肺動脈血栓内膜摘除術などの侵襲的治療も含めて集学的な治療に取り組んでおります。肺高血圧症は、治療法のなかった時代には5年生存率が約30%の予後不良な疾患でありましたが、現在では多くの新しい治療法が開発されたおかげで、神戸大学における5年生存率は80%以上と非常に予後が改善してきました(図1)。しかしながら依然、重症例では治療に難渋するケースがしばしばあり、更なる新規治療法開発に対する臨床的ニーズは非常に高いと思われます。動脈硬化の進行の様子

 現在は臨床データをデータベース化し、治療効果の高い症例と難治例の違いを最も反映する臨床的パラメーターの探索を行う臨床研究を行いながら、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者より摘出した手術標本からCTEPH細胞を単離し、in vitro肺高血圧アッセイ系(図2,3)を用いてCTEPH発症の分子メカニズムの解明を目指し、また肺動脈性肺高血圧患者の血液サンプルから抽出したDNAを用いて薬物代謝に関わる遺伝子のマイクロアレイ解析を行い薬物療法における個別化医療の実践に向けた研究(ファーマコゲノミクス)も進めております。臨床サンプルを最新の基礎的手法を用いて解析する事は非常に重要であり、そこから得られた知見をいかにまた臨床応用していくのかを熟考する事が私たちの研究の醍醐味です。

 さらに国際的に通用する研究者育成という観点より、先天性心疾患由来肺高血圧症における疫学・遺伝学的研究をインドネシアとの国際共同研究としてスタートさせ、本年度(2014年)より日本学術振興会(JSPS)二国間交流事業として採択されました。実際インドネシア研究者と年2回の交流に加え、遠隔会議システムを用いて英語でのディスカッション(図4)を通し、国際的なコミュニケーション能力の向上とグローバルな研究的視野の習得を若手研究者と共に日々模索しております。


動脈硬化の進行の様子 動脈硬化の進行の様子 動脈硬化の進行の様子 ページトップへ